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太陽フレアの発生がGNSS(GPS)測位にもたらす影響 位置情報の不安定化を防ぐ基礎知識と対策

GNSS(全球測位衛星システム)の利用において、「位置情報が不安定になる」「精度が急に悪化する」といった現象に遭遇したことはありませんか?機器や地上環境をチェックしても原因が特定できないこの現象は、実は地球から遠く離れた太陽の活動の急変によって引き起こされている可能性があります。

近年、太陽活動が活発化する中で、太陽フレアと呼ばれる大規模な爆発現象が、GNSS信号の正確性に大きな影響を及ぼすことが分かっています。本記事では、この宇宙からの影響が、なぜ測位誤差の増大を招くのかを分かりやすく解説し、位置情報の安定性を確保するための基礎知識と、今日から実践できる対策をご紹介します。

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位置情報の計算に影響を及ぼす、地球上空の「電離層」の役割

GNSSの信号が正確に届くまでの経路には、測位の正確性を左右する重要な層が存在します。
 

GNSSの正確さは「信号の伝搬速度」に依存する

 
GNSSは、衛星から送られてくる信号が地上に届くまでの「時間」を計測し、そのデータから「距離」を計算することで、私たちの位置を特定しています。この原理は、距離=速度×時間という非常にシンプルな計算に基づいています。
  
距離=光の速度×時間
  
この計算の前提は、信号が常に一定の速度(光速)で進むことですが、地球の上空にある特定の層を通過するときに、その速度がわずかに変化してしまいます。
 
 

信号伝搬を遅らせる要因:電離層(電子の密集領域)とは

    
信号の速度を変化させる層こそが電離層です(地上約60km~500km)。この層は、太陽からの強いエネルギーによって大気の分子が電離し、電子が大量に密集している領域となっています。
  
GNSS信号がこの電離層を通過する際、信号の伝搬速度がわずかに遅れる現象が発生します。これを電離層遅延と呼び、正確な測位における主要な誤差要因の一つです。通常は機器がこの遅延を補正していますが、電離層の状態が急変すると、この補正が追いつかなくなります。

参照:国土地理院「GNSSを使用した測量のいろいろ」  

太陽フレアの発生がGNSS測位に及ぼすメカニズム

太陽で起こる大規模な爆発現象が、どのように電離層を乱し、GNSSの位置情報の不安定化を招くのかを解説します。

太陽フレアと宇宙嵐による電離層の激しい擾乱

   
太陽フレアは、太陽表面で発生する大規模なエネルギー放出現象です。この爆発により放出されたX線や高エネルギー粒子が地球の電離層に到達すると、電離層の電子密度が急激に変化し、電離層の激しい擾乱(宇宙嵐)を引き起こします。
    
この激しい擾乱により、GNSS信号が経験する遅延の量が予測不可能となり、以下の二つの現象が発生します。
   
1. 信号伝搬遅延の急激な変化
2. 信号自体の減衰(シンチレーション)
   
   

信号の伝搬遅延が「測位誤差の増大」に直結する理由

  
GNSSは、信号が届くまでの時間を基に距離を計算しているため、信号の伝搬速度が乱れると、「衛星までの距離の誤解」が生じます。この距離の誤解が、そのまま私たちが観測する測位誤差の増大につながります。特に、信号の減衰(シンチレーション)が激しい場合は、受信機が衛星からの信号を追尾できなくなり、測位自体が一時的に中断されることさえあります。

参照:情報通信研究機構「NICT発技術で現場の課題を解決」 

測位の不安定化から身を守るための実践的な行動


     
GNSSの安定性を確保し、測位精度を守るため、現場で役立つ二つの対策をご紹介します。
 

対処法1:「宇宙天気予報」の確認と作業計画の調整

  
日々の天候予報と同様に、太陽活動の予測を行う「宇宙天気予報」の情報を事前に確認する習慣をつけましょう。
  
独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が公開している予報で、大規模な太陽フレアや宇宙嵐の発生が予測されている期間は、特に高精度な位置情報が求められる作業(ドローン飛行、精密測位など)を控え、作業計画を調整することが、最も簡単なリスク回避策となります。
  
参照:宇宙天気予報 
 
  

対処法2:マルチGNSS対応機器による冗長性の確保

    
測位の安定性を高めるための技術的な対策として、マルチGNSS対応機器の利用が推奨されます。これは、アメリカのGPSだけでなく、日本のQZSS、ヨーロッパのGalileoなど、複数の衛星システムを同時に利用する技術です。
  
一つの衛星システムが太陽フレアの影響で不安定になっても、他の複数の衛星の情報を使うことで、正確な位置計算を継続する「冗長性(レジリエンス)」が生まれ、測位誤差の増大リスクを軽減できます。

宇宙の脅威を理解し、安定したGNSS活用へ


 
電離層の動きは極めて複雑かつ突発的であり、GNSS測位にとって最も予測が難しい要因の一つです。太陽フレアによる影響が甚大である場合は、現時点の技術では避けがたい状況もありますが、私たちは皆様の安定測位の実現に向け、継続的な研究と取り組みを進めています。
   
私たちAKTは、確かな技術と知見をもって、皆様の安定的なGNSS利用をサポートいたします。
  

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  • 太陽フレアについて(お役立ち資料) 太陽フレアの発生がGNSS(GPS)測位にもたらす影響 位置情報の不安定化を防ぐ基礎知識と対策(2025.11 公開)

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