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遠隔臨場システムとは?国土交通省が推進する建設現場のICT化について解説

国土交通省から『建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)』が発表されたことで、ここ1・2年で推進の動きが一層加速している『遠隔臨場』。
 
土木建設業界での働き方改革、そしてコロナ禍の感染症対策においても急速に認知と活用が広がり始めた『遠隔臨場システム』について、導入のメリットや課題点、事例の紹介など詳しく解説していきます。

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遠隔臨場とは?

遠隔臨場とは、国土交通省の定義で「動画撮影用のカメラ(ウェアラブルカメラ等)により撮影した映像と音声をWeb会議システム等を利用して『段階確認』、『材料確認』と『立会』を行うものである。」とされています。発注者側の監督職員等が、現場にいなくても遠い場所から臨場を行うことをさします。
 
遠隔臨場システムを取り入れることで、受注者の手待ち時間の削減や発注者の現場臨場の削減による業務効率化を目指せます。
      

カメラで撮影した映像を遠隔共有

   
遠隔臨場では、主にウェアラブルカメラやネットワークカメラが用いられます。
 
ウェアラブルカメラとは、ヘルメットや体などに装着して使用する小型カメラのことです。ハンズフリーで撮影可能なため、作業を安全に進めることができます。
  
ネットワークカメラとは、インターネットに接続できるカメラです。ネットワーク機器にLANケーブルを直接つなげて使います。そのため通常は固定しての利用になります。
  
このような機器を用いて現場の映像を共有することで、下図の機器構成(例)のように、現場にいる作業員と事務所等にいる監督職員をTV電話やWeb会議システムでつなぐことができます。ネットワークカメラを用いてリアルタイムで現場状況を確認したり、見えずらい部分はアップで映すことなどができるため、移動コストや時間削減、生産性向上につながります。
 
国土交通省は、2022年度に直轄工事現場での遠隔臨場の導入可否の検討を実施予定としており、今後ますます導入現場が多くなると予想されます。

<機器構成(例)>

画像引用元
 
参照:「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)」(国土交通省 大臣官房技術調査課)

遠隔臨場を推進する背景


  
急速に導入が広がりはじめている遠隔臨場システムですが、国が推し進める理由として、主に3つの背景があると考えられます。

・建設現場におけるICT化の推進
・コロナ渦におけるビジネスの変化
・人的・時間的コストの軽減
 
 

建設現場におけるICT化の推進

 
建設現場におけるICTの活用は、生産性の向上、魅力ある建設現場を作ることを目的として国をあげて推し進められています。建設現場での国が推し進めるICT化プロジェクトを2つ紹介します。

・国土交通省の「i-Construction」
・内閣府の「PRISM」
  
  
国土交通省が手掛けるプロジェクト「i-Construction」

i-Construction(アイ・コンストラクション)とは、建設現場において測量から設計、施工、検査、維持管理にいたる全ての事業プロセスでICTを導入し、建設生産システム全体の生産性向上をはかる取り組みです。
 
ICTは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略で、通信技術を活用したコミュニケーションのことです。つまり、コンピュータやネットワークなどの新しい技術を建設現場に導入し、生産性を高めようという取り組みです。
 
   
「i-Construction」には、主に3つの取り組みがあります。
 
・ICT技術の全面的な活用(ICT土工)
ドローンを用いた3次元測量やICT建設機械による施工などで、早くて高品質な建設作業を実現する取り組み。
 
・規格の標準化(コンクリート工)
コンクリート工における規格を標準化し、コスト削減、生産性の向上をはかる取り組み。
 
・施工時期の平準化
限られた人材を効率的に活用するため、年間を通して工事量を安定化する取り組み。
 
以上のような取り組みのもと、生産性の向上と経営環境の改善を行い、「きつい」「危険」「汚い」という3Kといわれる建設現場から、「給与が高い」「休暇が取れる」「希望が持てる」という新しい3Kにすることが目的とされています。

参照:i-Construction(国土交通省)
 
  
  
内閣府が取り組む「PRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)」
 
PRISMとは官民研究開発投資拡大プログラムのことであり、「Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM」の略称です。
 
内閣府ホームページによると、「平成28 年12 月に総合科学技術・イノベーション会議と経済財政諮問会議が合同で取りまとめた『科学技術イノベーション官民投資拡大イニシアティブ」』に基づき、600 兆円経済の実現に向けた最大のエンジンである科学技術イノベーションの創出に向け、官民の研究開発投資の拡大等を目指して、平成30 年度に創設された制度」とされています。
  
簡単にいうと、「官民連携して、科学技術の研究開発を進めていこう」という目的です。
  
そのなかのターゲット領域に、「革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術」があり、建設現場における技術にもさまざまな取り組みや開発がされています。後述しますが、そのPRISM試行のひとつに「北海道留萌管内のトンネル補修工事」があり、実際に先進的な取り組みによる施工がなされています。
 
参照:官民研究開発投資拡大プログラム(内閣府)
  
  

コロナ渦におけるビジネスの変化

  
遠隔臨場が推奨されている理由のひとつに、新型コロナウイルス感染症拡大の影響があります。社会全体において、リモートワークやWeb会議など、ビジネス様式は大きく変化しました。
 
建設現場においても、遠隔臨場システムを取り入れることで現場へ足を運ぶ回数が削減でき、人との接触機会を減らすことで感染リスクが抑制できるということから導入が進んでいます。
  
特に公共工事などにおいては、安定したインフラ維持のためにも現場作業を継続する必要があり、新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインにも遠隔臨場の推奨が明記されています。
   
参照:建設業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン(厚生労働省)
  
  

人的・時間的コストの削減

 
遠隔臨場により、現場に移動する往復時間を削減することができます。また現場においても、待ち時間や無駄な時間がなくなり、空いた時間でほかの仕事ができるため、生産性の向上や働き方改革の推進につながります。
 
移動の際には交通費やガソリン代などのコストがかかりますが、遠隔臨場システムを導入することで、無駄なコストや排出ガスの削減を実現できます。

遠隔臨場システム 導入のメリットと課題


 

導入のメリット

 
遠隔臨場システムを導入するうえで、大きく以下4つのメリットが考えられます。

・人材育成・技能伝承に役立つ
・安全性の向上
・人手不足の解消
・新型コロナウイルス感染症対策に有用
  
  
人材育成・技能伝承に役立つ
  
遠隔臨場では、現場にいない人ともやりとりができるため、通常の臨場よりもコミュニケーションの機会が増えるでしょう。
  
例えば、現場にいない熟練技術者からアドバイスを貰える機会が増えることで、人員の育成が期待されます。また、現場で問題が起こった際の状況説明が的確でスピーディになり、対応も早くできるため技術の共有もよりはかられます。映像を録画しておくことで、後々の研修資料として活用することも可能になります。
  
  
安全性の向上
  
通常の臨場では、実際に現場に行ける日程や時間が限られているため、その日に可能な限りの安全確認をしなければいけません。短時間で詰め込んだ確認では、人為的なミスの発生や確認漏れなどが起きる可能性があります。
 
遠隔臨場では、カメラを常時設置しておくことで、リアルタイムで現場の状況を確認できます。このことにより、現場の異常や天候の変化による現場状況の変化にも気づくことができ、災害の防止などにも役立つでしょう。
  
 
人出不足の解消
  
2019年に国土交通省から報告された「建設業界の現状とこれまでの取組」によれば、建設業の就業者数は1997年の685万人をピークに減り続け、20年で約27%減少しています。
  

画像引用元 
 
また、建設業に携わる技能労働者のうち、60歳以上の高齢者は82.8万人と就業者全体の25.2%を占めています。このことからも、10年以内の大量離職が見込まれ、中長期的に人手不足の課題がわかります。
   
遠隔臨場をはじめとした、現場の業務効率化は人手不足の解消に役立ちます。さらには、現場の働き方環境の改善につながり、人材確保も見込めるでしょう。
     

画像引用元 
     
    
新型コロナウイルス感染症対策に有用
   
遠隔臨場は、現場での人と人の接触機会を減らせます。そのため、感染予防対策としても注目されています。特に建設現場は、公的な施設も多く、社会基盤を支えるうえで作業の継続性が求められるため、コロナ禍において業務を遂行しやすい環境を整えていくことが大切です。
  
   
  

導入における課題点

  
遠隔臨場システムを導入するにあたっては、いくつか懸念される課題点があります。たとえば、機器導入のコストが発生すること、通信環境の確保をしなければならないこと、そしてIT機器を扱う技術者の確保も必要となることなどが考えられます。
   
   
機器導入のコスト
  
遠隔臨場システムの導入には、必要になるカメラや録音機器を導入するためのコストが発生します。高機能なウェアラブルカメラ(体に身に着けて撮影できるカメラ)を多く導入する場合は、リースやレンタルであっても金銭的に負担になることでしょう。
 
しかし、手軽に導入できるスマホやタブレットを利用した遠隔臨場が認められる場合もあります。特別な機材を利用しない場合は、zoomなどWeb会議用アプリのダウンロードの手間や通信費用はかかるものの、むしろ初期費用は安く済むことも多いです。
    
また、機材の購入やリースをする場合は、働き方改革の推進のための助成金もいくつかあります。それらをうまく活用することで、初期費用を抑えることも可能です。
   
   
通信環境の確保

遠隔臨場システムは、基本的にインターネットを介して映像をやり取りするため、通信環境の影響を受けます。トンネルや山間部など電波が届きにくいエリアでは、通信環境によってはスムーズに映像が視聴できないことがあります。
   
また、現在の通信規格は4Gが主流となっているため、通信環境によっては映像や音声がぶつぶつと途切れる瞬断が生じることも考えられます。そのため、事前にテストを行っておくことが欠かせません。
    
段階確認や材料検収では少々の瞬断で問題になることはありませんが、重要工程の立会はより一層注意が必要になるでしょう。
    
   
IT機器を扱う技術者の確保
    
遠隔臨場システムは、操作が簡単な機器を用いることが多いです。とはいっても、不慣れな作業員にとっては負担になり導入が進みにくい場合もあるでしょう。マニュアルの作成や自社で研修を行うなど、かえってコストがかかる場合も考えられます。
 
特定の人しか使えない機器にならないことが重要です。
  

施行実績と事例


画像引用元
  
関東地方整備局による、令和3年度の遠隔臨場の試行実績を紹介いたします。
  
試行件数は令和2年度の166件から令和3年度(10月末時点)は428件と約2.6倍に大幅増加しています。また金額規模で見ると試行工事のうち1億円以上の工事が92%を占めています。また受注者アンケートによれば、移動時間や待機時間の削減、新型コロナ感染症対策に効果を感じ、来年度以降も遠隔臨場の実施を希望する受注者が97%もいたことがわかりました。
  
このように、試行件数の増加やアンケート回答の結果からも、遠隔臨場の効果があることは確認できます。また、受注規模の大きな工事では、臨場回数も多くなるため、効果がより感じられていると考えられます。
   
参照:令和4年 関東地方整備局における建設現場の遠隔臨場の試行方針
   
  
 
   
遠隔臨場が取り入れられた具体的な事例として、『内閣府が取り組む PRISM』の章でも触れた「北海道留萌管内のトンネル補修工事」を紹介します。
   
この現場では、現場内にあるカメラと、現場のコミュニケーション用のタブレットおよびヘッドホン・マイクを利用してコミュニケーションシステムを構築してあります。
  
このシステムにより、受発注者間の日常的なコミュニケーション、段階確認等の効率化が目指されています。加えて、受注者の日常的な施工管理における、現場と現場事務所、社内検査における本社のベテラン技術者と現場をつなぐことができており、現場の安全と品質の向上につなげています。
  
そのほかにも受注者においては、記録映像によって施工振り返り検証をしたり、現場の安全情報の共有をしたりなどさまざまな面で効果があったようです。

参照:北海道開発技術研究発表会論文「映像臨場を活用した現場確認の効率化」

『遠隔臨場システム』取り扱い製品をご紹介

   
AKTで取り扱いのある遠隔臨場システム『Generation-Eye』を紹介します。
    

『Generation-Eye』 遠隔臨場システム

NEITS登録番号:KT-190074-VE
Generation-Eye 製品イメージ
  
Generation-Eyeは、スマートグラスという機器のカメラで撮影した現場の映像をリアルタイムに送信し、遠隔地においてリモートで現場状況を把握・支援することができる遠隔臨場システムです。
  
スマートグラス着用者に対し、実際の景色に映像を重ねて資料表示や赤ペン指示ができるという特徴を持ちます。ウェアラブルカメラの特徴であるハンズフリーでの作業や、現場作業員の目線を遠隔地と共有し録画や撮影できるなど、より遠隔地からの指示が具体的に可能なよさがあります。
  
NETIS登録もされているGeneration-Eyeは、機材一式をレンタルで提供しているため初期費用を抑えることができ、Wi-Fiの準備や専用サーバの構築も不要です。遠隔作業支援に必要な機能を予め備えているため、すぐに​導入することができます。
    

Generation-Eye:製品詳細を見る

まとめ


   
遠隔臨場推奨の背景や遠隔臨場システムのメリットや課題について説明させていただきました。
  
業務の効率化や働き方改革、コロナ禍における感染対策などさまざまな面での解決策として注目されており、現場導入や製品開発が一層期待されているシステムです。ご興味の方は、是非この機会に導入のご検討をしてみては如何でしょうか。
   

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