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i-Construction2.0とは?国土交通省が掲げる目標・取り組み事項を解説
国土交通省が建設業界の生産性向上を目指すために2016年4月に発表した『i-Costruction』。それを時代に沿う形でバージョンアップさせたのが、2024年4月に発表された『i-Construction2.0』です。これまで一定の成果を上げてきたi-Costructionに加え、新たな技術や分野での目標を掲げています。
人手不足や長時間労働が長年の課題となっている建設業において、全面的なICT化はもはや必須事項といえるでしょう。今回は、i-Costruction2.0について詳しく解説します。
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目次
国土交通省策定のi-Constructionとは
i-Constructionとは、建設現場における調査・測量、設計、施工、検査、維持管理、更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて、ICTを全面的に活用することで生産性を向上させる取り組みです。国土交通省が2015年12月に建設現場の生産性革命として打ち出した施策であり、ICT活用を推し進めるキーワードとなっています。
i-Constructionが策定された背景は、次のような社会課題があるためです。
・ 生産年齢人口の減少や高齢化
・ 災害の激甚化・頻発化
・ インフラの老朽化
・ DXの本格化
こうした課題を解決するためには、建設現場の生産システムを刷新し、生産性を向上させることが必要です。国土交通省は、i-Constructionの推進により、建設DXを後押ししています。
i-Constructionの推進による成果
i-Constructionの推進で、これまでに次のような成果が生まれています。
・ 2022年時点で土木工事のICT施工率87%を実現
・ ドローン測量により、従来手法の約4割の人工で測量することが可能に
・ 機械学習、人工知能の急成長、急発展
・ 施工管理分野では、3Dレーザースキャナやスマートフォンアプリなど、3次元計測技術が普及
このようにi-Constructionの取組は着実に広がり、生産性向上に一定の成果が確認されています。
i-Constructionの推進における課題
一定の効果は見られているものの、i-Constructionの推進における課題も残されています。
例えば、一人で複数の建設機械を同時に操作する技術や陸上・海上工事の自動化技術など、より高度なICT技術の普及が十分に進んでいないのが現状です。このままでは生産性向上が頭打ちになる恐れもあるので、さらなる省人化対策に取り組んでいく必要があります。
課題に対しi-Construction2.0と似たような取り組みとして、『ICT施工ステージ2』という枠組みも国土交通省より提唱されています。
BLOG:ICT施工ステージ2の取り組み内容をわかりやすく解説
2024年4月発表『i-Construction2.0』で目指すこと
国土交通省は2024年4月、さらなる建設DXの推進のために『i-Construction2.0』を打ち出しました。i-Construction2.0では、以下のことを目指しています。
・ 省人化・生産性の向上
・ 建設現場の安全確保
・ 柔軟な働き方の実現や多様な人材の登用
・ 賃金水準や労働環境の大幅な改善
省人化・生産性の向上
i-Construction2.0の目玉は、建設現場の省人化と生産性の抜本的な向上です。2040年までに、2023年と比べて生産性を1.5倍以上、つまり3割以上の省人化を実現するという高い目標を掲げています。
国土交通省は、設計分野でもBIM/CIMによる自動設計ができるようになれば、3割の省人化もできると見込んでいます。また、維持工事などの省人化の難しい分野でも、他の好事例を活かすことで取り組みを進めていきます。
建設現場の安全確保
建設業界では機械化が進む一方で、重大な労働災害が後を絶ちません。厚生労働省の『労働災害統計(2022年)』によると、建設機械の関与する死亡事故は全体の2割近くに上るといいます。
人が現場に関わる限り、リスクを完全に取り除くことは難しいものの、自動化や遠隔化でリスクを最小限に抑えていかなければなりません。
柔軟な働き方の実現や多様な人材の登用
建設業は、いわゆる『3K(きつい、汚い、危険)』のイメージが根強く、若者離れが顕著になっている業界です。その状況を変えていくのも、i-Constructionの目標の一つです。
炎天下での作業を事務所デスクで行ったり、クラウドサービスを導入し柔軟な働き方にすることで、これまでより多様な人材が活躍できる場を整えていきます。
賃金水準や労働環境の大幅な改善
先ほどの3Kイメージの打開にもつながりますが、『給与がよく、休暇が取れ、希望がもてる建設業の実現』を掲げています。
オートメーション化や柔軟な働き方で生産性を高め、完全週休二日の確保など、他業種と変わらないレベルの労働環境の実現が期待されています。
国土交通省が掲げるi-Construction2.0の取り組み事項
・ 施工のオートメーション化
・ データ連携のオートメーション化(デジタル化・ペーパーレス化)
・ 施工管理のオートメーション化(リモート化・オフサイト化)
施工のオートメーション化
『施工のオートメーション化』とは、ICTを最大限に活用し、建設機械の自動化・遠隔化を強力に推進することです。一人多役の施工を可能にし、3Kのような働き方を根本的に変えていきます。
施工のオートメーション化の取り組み内容としては、以下が挙げられます。
・ 建設現場の自動施工の環境整備
・ 遠隔施工技術の普及促進
・ 施工データ集約・活用のための基盤整備
・ ICT 施工の原則化
建設現場の自動施工の環境整備
自動施工の実現には、安全性の確保が大前提です。2024年3月には、建設DX実験フィールドなどでの現場検証をもとに、自動施工の安全ルールを策定しています。2024年は、この安全ルールを現場に適用する、試行工事を行っています。
遠隔施工技術の普及促進
オペレータが建設機械に乗らずにリモートで操作する『無人化施工』も実施されてきました。これまでは災害復旧工事など限定的な運用にとどまっていた無人化施工を、今後は一般の工事にも広く普及させていきます。
施工データ集約・活用のための基盤整備
建設現場の見える化・デジタル化のために、建設機械から集められる施工データをまとめ、活用するための『施工データプラットフォーム』を整備します。リアルタイムかつ双方向なデータ取得・共有ができるようになります。
2024年には、データ活用による『作業待ち防止』や『最適な要員配置』の効果を検証する試行実験を行う予定です。
ICT 施工の原則化
『ICT土工』に関しては、2022年の直轄工事のうち約86%に実施されたという実績があります。これにより、建設機械から稼働時間や位置情報といったデータを集められるようになりました。
2025年からはICT施工を原則とし、施工データをより取得しやすい環境を整えていきます。
データ連携のオートメーション化(デジタル化・ペーパーレス化)
施工の自動化と並ぶi-Construction2.0のもう一つの柱が、『データ連携のオートメーション化』です。BIM/CIMの推進による建設プロセス全体の3次元データ化と、それを一気通貫で活用できる環境の構築が目標です。
データ連携のオートメーション化(デジタル化・ペーパーレス化)の取り組み内容としては、以下が挙げられます。
・ BIM/CIM による建設生産プロセス全体のデータの連携
・ 3次元モデルの標準化と契約図書としての活用に向けた取組
・ デジタルツインの活用による現場作業の効率化
・ 施工データの活用の効率化
・ データ活用による書類の削減
BIM/CIM による建設生産プロセス全体のデータの連携
建設DXを牽引するのが、BIM/CIMの活用促進です。
2026年度までの『積算システムの改良』に応じて、3次元モデルや設計支援ソフトウェアで算出する数量を、直接積算に用いられるよう必要なツールを開発していく予定です。
設計データのICT建設機械や工場製作での活用にも取り組み、例えば、『中心線や横断図データを納品してもらい、施工段階に共有する』などの活用を進めていきます。
3次元モデルの標準化と契約図書としての活用に向けた取組
これまでに『BIM/CIM原則適用』を進めてきたものの、現状では3次元モデルと2次元モデルが連動していません。この連動を担保し、主構造は自動設計していく必要があるとしています。
2024年から3次元モデルの標準化するための課題を整理し、一部での取り組みを進めていく予定です。また、3次元モデルを標準化して、契約図書として活用するロードマップを策定します。
デジタルツインの活用による現場作業の効率化
工程がより複雑な工事において、BIM/CIMによる『4Dモデル』を構築し、施工プロセスをデジタル空間で再現するといった、事前の作業シミュレーションを行います。
また、リアルな現場とサイバー空間を結ぶ『デジタルツイン』技術で、4Dモデルの情報をARやVRで現場に投影し、関係者全員にイメージを共有することで、手戻りやミスを防ぎます。
施工データの活用の効率化
施工不良や瑕疵(かし)のあった場合に、発注元が管理している施工データを検索することで、同じ施工方法や材料、製品などを使った現場を確認しやすくするため、国土交通省の『電子納品・保管管理システム」の改良を検討しています。
データ活用による書類の削減
直轄工事の施工管理では、工事管理や書類管理、決済、電子納品データの作成支援といった機能を有す『情報共有システム(ASP)』を活用しています。
今後、施工管理関連情報(工程、出来形・品質、図面、写真等)を共有や活用するために、ASP の拡充を検討していきます。
施工管理のオートメーション化(リモート化・オフサイト化)
『施工管理のオートメーション化(リモート化・オフサイト化)』とは、リモート技術や工場製品の活用により、施工のムリ・ムダ・ムラを一掃し、現場と設計のデータ同期による合理的な工程管理を追求します。
施工管理のオートメーション化(リモート化・オフサイト化)の取り組み内容としては、以下が挙げられます。
・ リモート監督検査
・ ロボットによるリモート検査
・ 高速ネットワークの整備
・ プレキャストの活用
・ ドローンや AI などの先進技術の積極的な活用
リモート監督検査
『リモート監督検査』とは、2022年から原則適用としている、立ち会いや確認作業をカメラ・Webを使って遠隔から行うことです。2024年からは中間技術検査や完成検査にも、適用を拡大します。また、2023 年からはカメラ画像を解析して構造物配筋の出来高検査もスタートしています。
ロボットによるリモート検査
災害時などでのスピーディな対応を叶えるため、ロボットによる遠隔・自動での設備点検を検討しています。
現在は、国土交通省の施設で表示ランプやメータリングの確認などを行っています。今後は、山岳地や離島でも試験を進めていく予定です。
高速ネットワークの整備
建設DXを進めるためには、その基盤を支える高速ネットワークが欠かせません。
『河川道路管理用光ファイバ』を用いて、日本全国を 100Gbps の高速・大容量回線で接続。3次元モデルなどの大容量データをスムーズに送受信できるよう、高速ネットワーク環境の整備に取り組んでいきます。
プレキャストの活用
『プレキャスト(規格化されたコンクリート部材を工場で量産し、現地で組み立てること)』の製品を活用しやすくするため、標準化や一般化、全体最適に関する検討を進めています。
また、規格ごとの適用を検討したり、活用事例集を作成したりしています。
ドローンや AI などの先進技術の積極的な活用
危険の伴う環境での作業による負担を抑えるために、ドローンやAIといった先進技術を積極的に活用します。それによって、屋外作業のリモート化やオフサイト化を実現します。
i-Construction2.0の推進には新技術の活用が不可欠
i-Construction2.0を推進するうえでは、これまでの慣習ややり方にとらえわれず、新技術を活用することが重要です。ただし、新技術を導入するには環境を整備していく必要があります。
例えば、建設工事などの受注者は、発注者の定めた仕様に基づいて施工することになりますが、もし新技術を活用するなら発注者の承諾が必要です。そのため、発注者側も公平性を保ちながら新技術を選定することになります。
また、新技術を活用する場だけでなく、さらなる新技術を開発する場の整備も欠かせません。技術開発では、他社と競争していく領域と、他社と協力していく領域とがあります。それぞれにリソースを最適化することが大切です。
BLOG:NETIS(新技術情報提供システム)について解説!
まとめ
i-Construction2.0は、国土交通省が2024年4月に発表した建設DXを推進するための施策です。これまで一定の成果を上げてきたi-Constructionをさらに発展させています。
具体的には、施工のオートメーション化、データ連携のオートメーション化、施工管理のオートメーション化という3つの取り組み事項を推進。建設機械の自動化・遠隔化、BIM/CIMによる3次元データの活用、リモート監督検査など、先進技術を積極的に活用しながら、建設現場のDXを加速していきます。
AKTが提供する自社ソフトウェアの多くはクラウドを活用しており、これらはデジタル化・ペーパーレス化に寄与する製品といえます。また、ミリ波レーダーを活用したブレーキ制御システムをはじめ、現場の自動化・無人化における技術提供なども積極的に行っており、OEM実例など表に出せないものも含め多数実績があります。i-Construction2.0推進のための製品開発のご相談など、是非お気軽にお声掛けください。